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第九章  必ず来る悲しいこと

さて、のっぷぴの歴史を語る上で、どうしても避けて通れない悲しいことがあります。
それは、『んがお』家で初めて家族として長い年月を共にしたおにいちゃん、チョビの死です。
たいていのコンパニオンアニマルは、人間より短命です。どうしても自分より早く年老いて、早く天国に召されてしまうのは、分かり切ったことです。子供のころから犬や猫と暮らして、彼らが帰って来なくなってしまった経験から、チョビやスズカやフジコにも必ず別れの日が来ると頭では分かっていました。そして、たぶん、冷静に受け止めることができると思っていました。

チョビの具合が悪くなったのは、1997年3月頃のことです。どうにも下痢が止まりません。動物病院に連れて行き、下痢止めの薬をあげることになりました。しかし、猫は薬を飲まされるとわかると、けして飲もうとはしません。逃げる、逃げる。おかかのまざったちいさなお握りに薬を仕込んでのませたり、カンヅメに混ぜたりとかなり苦労しました。
しかし、下痢はいっこうに治りませんでした。どういうわけかベッドの上で下痢をする癖がついてしまい、さすがに困りはてて布団をどかしてベッド一面に新聞紙をしきつめて出勤する毎日でした。
下痢の薬のほぼ全てを試して、しかし、回復しないので、消化器系ではない別の病気の可能性も出てきました。アレルギーかもしれないということで、アレルギー食も処方されました。病院の医院長先生が先頭にたって診てくれて、あらゆることを試してみたのですが、効果はありませんでした。
この段階でしかし、私はあまり心配していませんでした。なぜなら、下痢もしていましたが、食欲もあったのです。下痢が続いていた分体重は軽くなりましたが、むしろ贅肉がおちたと思っていました。
しかし、いよいよおかしいということで、腸の組織を大学病院で検査してもらうことになり、開腹手術をすることになりました。原因がわかるのであれば、と承知して、チョビは入院しました。
果たして、病名がわかりました。『肉芽種性腸炎』。医院長先生の話によると、彼の長い医師歴の中で犬では2.3件の手術の経験があるが、猫では初めてという、非常に珍しい病気だそうです。とにかく、その原因の腸の部分を取り除かなければなりません。しばらくして、またチョビは手術のために入院しました。
ここでも、私はまだチョビが死ぬとは思っていませんでした。原因さえとりのぞけば、また元気になるものだと信じていました。
そして、手術も無事に終わり、チョビは家に帰ってきました。
もう大丈夫と思った数日後、チョビが全く食べなくなりました。夜中に病院に電話してスープでもいいから飲ませなさいといわれましたが、それも唸ってうけつけません。ここで、初めてチョビが死ぬかもしれないという恐怖にとりつかれました。翌日、必ず治してあげるから、と泣きながら動物病院に向かい、すぐにまたチョビは入院になりました。
1週間ほど入院したと思います。煮干しやなまりや、かつおぶしなどを持って、毎日お見舞いに行きました。点滴を打たれている姿は痛々しいものでした。
土曜日、会社の帰りに病院に寄り、ケージからチョビを出してやると殆ど食べていないはずなのに、頭を強い力でグイグイと私の胸にこすりつけました。もう、なく声も出ない様子なのに。家に帰りたいと言っているのは、すぐにわかりました。
翌日は日曜日です。このまま、点滴をはずして家につれてかえれば、私の見ているところで安らかに死ねるかもしれない、と思いました。医院長先生に家につれて帰れないかと尋ねると、点滴を外しても、生命力が強いからすぐに息をひきとるわけじゃないよ、と言われました。もし、そうだとしたら、私やダンナが会社に行っているときにさみしくチョビを死なせることになります。それだけは、どうしてもイヤでした。だとするなら、病院でできるかぎりのことをしてあげたい、とその日はひきとるのをやめにしたのです。
翌日の日曜日でした。
夕方、当直の先生からの電話でチョビの死を知りました。
すぐに病院に行くとまだあたたかなチョビが横たわっていました。
いい子です。
私たちに、死に際のなにもできない苦痛を味あわせずに、しかし、冷たい死体を見せることもなく、できるだけのことはしたという気持ちを持たせてくれて、日曜日の病院で天国に行きました。
1997年11月16日のことです。
今、チョビは、猫たちが食事をする二階の洋室の本棚の中にいます。遺骨を庭に埋めるつもりにはなりませんでした。彼はずっと室内で生活していたので、外にはおけません。まして、私たちから遠く離れた墓地にもあずけられません。ずっと一緒に生活していきたいと思っています。多分、今も家のあちこちにいてくれていると思います。
チョビは、私たちの一番猫ですから。

   第十章  ペットロス症候群  につづく

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