第二章  黒い稲妻来る

さて、『んがお』家に貰われて以来、一人っ子のちやほや状態をエンジョイして来たチョビに大事件がおきます。
半年が過ぎて、ぼくはこの家の王子様に違いないと思い込んでいた6月のとても暑い日の夕方、夕食を食べている『んがお』ダンナがいきなり、『んがお』にRに言ったのです。
「言おうかどうか迷ったんだけど、今日、営業の外回りの最中に小さい捨て猫を見た」
それはそれは暑い日で、そんな日に赤ちゃん猫がほおりだされていたら、あとはもう死ぬしかないような気温だったのです。
テーブルの上もそのままに、即座にその猫を探しに行くことになりました。
「もういないかもしれない」
という『んがお』ダンナの言葉とは裏腹に『んがお』Rは、かならずいるという確信がありました。
自動車で15分ほどの場所で、駐車スペースのために少し離れた所で車を降りて、『んがお』ダンナは、昼間猫を見つけたところに走ります。しかし、『んがお』Rは、気になったアパートの前を動きません。
「そこじゃないよ」
というダンナ。でも、見つけました。小さい掌に乗るほどの子猫がアパートの陰から出てきました。
にゃー、と鳴いているつもりで口を開けるのですが、声が出ていません。
「よくみつけたな。その猫だ」
ダンナの言うとおり、本当に声も出していないのに、よくみつけたものです。しかも、あの暑い一日をよく生きていたものです。
子猫は、すぐに家につれて来られ、『んがお』家の猫になりました。
それが、スズカ。『のっぷぴ』の『ぴ』です。
さて、驚いたのは、チョビです。自分以外に『んがお』家に小さな生き物が来たのです。
耳は真後ろに、近寄りもしないで、それを睨むだけです。
しかも、その生き物はものすごくイキがいいのです。小さい体をめいっぱい使って走るし、じゃれるし。
チョビのいたスペースをどんどん侵略していきます。
ちょうど『んがお』Rがパートに出る時期だったので、留守の間、大きな箱にスズカを入れて上に網戸をかぶせて出掛けても、戻って来るといつのまにか出ています。
お父さんとお母さんの愛情がスズカに移ってしまったし、スズカの持っていた風邪の菌はぼくにうつってしまったし。
チョビ最大の風邪をひいて、入院の憂き目に会いました。
チョビの入院ちゅう、にわか一人っ子になったスズカにも、しかし、試練の時が来てしまいます。

                                    第三章  母、大いに泣く  に続く

おまけ  スズカのネーミングの由来は、当時『んがお』家は、カーレースのF−1にはまっていて、彼女の体が当時のサイドポンツーンの張り出したフェラーリに似ていたことから、サーキットの名前をつけようということになったのでした。そう、鈴鹿サーキットのスズカです。
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