第三章  母、大いに泣く  

チョビが入院して、国分寺のアパートの『んがお』家には、スズカ一匹だけになってしまいました。
もっとも、スズカが『んがお』家に慣れるには都合がよかったようです。
彼女は生まれてからずっとこの家にいるのよ、といったふうに慣れて行きました。
一方のチョビのほうは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの状態が続き、なかなか退院できません。
さて、風邪のチョビは病院に預けているし、スズカは慣れてきたし、すっかり『んがお』Rの気が緩んだ頃に悲劇はおこりました。
台所の椅子をガタンと引き寄せた所、ギャッと言う声とともに黒い塊が台所を飛び出て行きます。
後には、点々と血のあとが。
そうです、椅子に座って全体重をかけてスズカを踏ん付けてしまったのです。
慌ててスズカを捜しだし、調べると尻尾の先がぶらん、としています。
もともとカギ尻尾の、その折れ曲がった部分が完全に折れた状態です。
取るものもとりあえず、国分寺動物病院に自転車を走らせました。
大失態です。
小さい黒い可愛い子が、椅子の下に潜り込んでいるのに全く気がつかないなんて。
病院で先生に「これは、切らないとならないな」と、言われた時には、涙がボロボロ出ました。
スズカの尻尾は真っ黒ですが先っぽだけ白いのです。それがとてもかわいらしくて、彼女のトレードマークだったのです。それが自分の不注意のせいでなくなってしまうかと思うと、泣いてどうなるものでもないのですが、涙が止まりません。
しゃくりあげながら、「スズカが痛くなくなるなら、そうしてください」と言うしかありませんでした。
しかし、動物病院の先生は、あまりに『んがお』Rが泣くからでしょう、
「今日テーピンクの新しいのが入ったので、これを試して見ましょう」
と、言ってくださったのでした。
果たして、運がいいのか、スズカが強いのか、スズカのキュートな尻尾の先は見事につながり、残ることになりました。
スズカもチョビも退院し、『んがお』家に猫2匹の生活がスタートしました。
スズカがおてんばだったせいか、あのやんちゃだったチョビはどんどんお兄ちゃんになってきました。
虚勢したことも手伝ってか、性格もおっとりしたものに変わりました。
チョビは、スズカがだんだん大好きになっていったようです。いつも寄り添っている2匹を見ることができるようになりました。
そんな平和な夏が盛りのころ、またしても『んがお』家の猫生活に変化が訪れようとしていました。

                 第四章  拉致された緑の目
  につづく
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